'08 大統領選 RACE 選挙と人種が映すアメリカ

朝日新聞記者を経てUCLAとUCバークレー大学院でアメリカ黒人研究を専攻、修士号。ロサンゼルスを拠点にオバマとヒラリーの対決を取材中。2008年アメリカ大統領選(レース)を人種(レイス)で読み解く。

「ホワイトネス」の苛立ち

3月11日、ミシシッピの予備選でオバマは61%対37%でヒラリーに勝った。黒人票の92%がオバマに、白人票の70%がヒラリーに投じられ、予備選を通じて人種のラインが最も色濃く出た結果になった。しかし、その日、朝からメディアを賑わせたのは民主党の大物、ジェラルディン・フェラーロだった。下院議員だった84年、モンデールの相方として女性で初めて2大政党の副大統領候補に選ばれた(結果はレーガン&ブッシュに大敗)。今回の選挙ではヒラリーを支持し、資金集めを担当。そのフェラーロが、ロサンゼルスの地域紙に次のような発言をしていたことが明らかになったのだ。

「オバマがもし白人の男性だったら、そして肌の色はなんであれ女性であったら、今の位置にはいないだろう」。オバマが指名争いのトップにいる理由は、彼が「ラッキーなことに」黒人であり、国民が「(黒人を大統領候補に選ぶという)コンセプトに夢中になっている」からだーー。

発言はブログやケーブルTVを通じて広がった。オバマ陣営は「オバマの人種だけを強調し、能力を過小評価している」と抗議、フェラーロの解任を求めた。

オバマ自身も「人々を分断する発言。アメリカの歴史を理解している人なら、明らかに馬鹿げたコメントだと分かるはずだ」と非難した。

◆ 「逆差別」の論理 ◆

しかし、フェラーロは引き下がらなかった。「オバマが白人男性だったら黒人コミュニティーがこんなに興奮するはずがない」と、黒人有権者に責任を転嫁。「私は明らかな真実を言っただけだ」と開き直った。

結局辞任したが、「差別だと糾弾して黙らせる方こそ差別的だ。人種差別は一方通行じゃない。彼らが私を攻撃するのは私が白人だからだ」と、逆差別(reverse racism)を訴えた。

黒人識者たちはこれを、オバマに流れ始めた白人票を取り返すための「合図」だと受け取った。フェラーロの発言は、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)に苛立つ白人の論理にそっくりだからだ。

アファーマティブ・アクションは、公共事業や公立学校などでマイノリティーの雇用拡大や機会均等を推進するプログラムの総称だ。64年の公民権法成立に続き、歴史的に蓄積した黒人への差別と格差を解消するためにジョンソン政権が実施し、すぐに女性やその他の少数者にも対象が拡大された。

しかし、政権が変わると、アファーマティブ・アクションは攻撃にさらされた。

「黒人は能力や資格が足りないのに優遇されている。そのせいで本来なら登用されるべき自分の機会が奪われている」。白人の間に不満が広がり、人種格差を是正するための措置は「能力主義に反した特別待遇」と曲解され、逆差別を根拠にした裁判も起きた。

◆ 見えない特権 ◆

アファーマティブ・アクションは、競争できるレベルにありながら機会を奪われてきた黒人中流階級やエリート層にとっては大きな踏み台になった。

しかし、最も目に見える恩恵を受けたのは白人女性だ。それまで白人男性が独占していた企業や組織のポジションに進出。アジア系やラティーノも力をつけた。

第2次大戦後、復員兵の大学入学や住宅購入、職業訓練などを補助したGIビル(復員兵援護法)も連邦政府の大規模アファーマティブ・アクションだった。黒人の多くは恩恵から排除されたが、白人中流階級の形成に貢献した政策として、今でも高く評価されている。

それだけに、今のアファーマティブ・アクションが「不当に黒人を優遇している」という逆差別の論理には、白人の特権意識が隠れていると黒人たちは見る。

取材先で会ったオバマ支持の黒人女性は「この国で黒人であることがラッキーだったことなどない」と話す。「フェラーロのような白人は、黒人に能力で負けることが我慢できない。それでいて、歴史的・日常的に享受しているホワイトネス(白人性)の特権を決して認めようとしない」

ラトガース大学の黒人女性教授は「政治の世界にアファーマティブ・アクションがあるとすれば、世襲や資産、内部コネクションだ。優遇されているのはオバマではなくヒラリーではないか」と述べた。

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